耳に突き刺したタトゥー

最近の教育業界では、YouTubeなどでカリスマ講師の授業が無料で受けられるようになり、学ぶ機会の均等化が進んでいます。一見すると、開放的で平等な時代になったように見えます。しかし、塾業界では「授業をしない塾」が主流になりつつあり、この変化が塾講師を目指す人々にとっては、夢が遠のくような時代でもあります。
私が大学受験をしていた頃は、人気講師の授業を受けるために、開始1時間前に教室の前方に座ることは不可能でした。前列に座りたいのであれば、授業開始の3時間前から並ぶ必要がありました。真夏には汗を垂れ流し、真冬には凍えながら並ぶというストイックな経験が求められました。そのような苦労をしてでも受けたい授業が毎日のように行われていたのです。一回の授業に対する心構えも非常に慎重で、復習する際には授業のノートと授業中に録音したカセットテープだけが頼りでした。
家に帰ると、カリスマ講師の感動的なテキストを眺め、カセットをデッキに入れてそのまま眠りにつくこともありました。お気に入りの先生の授業はまさにお経のように暗記するほどで、その頃から私もあのように信頼される講師になりたいと強く願ったものです。
現在では、動画で何度でも大物講師の授業を体験できる時代になりました。それが受験生にとって良いことなのかどうかは一概には言えません。また、授業をしない塾で、突っ込んだ質問に答えられない講師が見張り役をしているような授業に本当の価値があるのかも疑問です。
ただ、確実に言えることは、音声のみで授業を理解し、それを暗記する「シャドウティーチング」の重要性です。授業中の言葉の選別や言い回し、喋る際の間の取り方など、すべてが授業の質を左右する要素です。これらを身につけることは、講師としての実力を高めるために非常に重要です。
今や便利になりすぎたこの時代には、「苦行」とも言えるかもしれませんが、本物の塾講師として活躍したいのであれば、音声のみを頼りにしたシャドウティーチングを実践してもらいたいのです。「どうでもいい」と思える情報も、実は授業のリズムや間合いを作り上げ、講師としての実力を飛躍的に向上させるための重要な要素です。
私が経験してきたような苦労を乗り越え、本物の講師になるための道を歩んで欲しいと心から願っています。